みながら、兄が馬に喰われているのを眺めている夢を見た。
中学校へ通うようになると兄はいっそう無口になった。兄の穿《は》く靴を弟は嘆美に似た心持ちで眺めた。それから、兄がリーダの復習をしているのを傍で聞いていると、きゅうに、兄が、どんなに踏み台をしても届かないようなところへ昇天してしまったような気がするのだった。
ある日、弟は兄の友人からこんなことを聞いた。その日、兄の組は体操の時間に高い梁木の上を渡らされた。兄は、教師の止めるのを聞かないで、皆と同じように渡ろうとした。そうして、半ばまで来ると、不意によろめいて、くくり猿のように梁木にしがみついた。いったい、片方の眼を失った彼が、直線の上を真直《まっすぐ》に歩こうとするのがむりなのだ。兄はそこから吊さがっている長い棒を伝っていったん下へ降りてきた。教師は苦笑しながら、それみろと言った。
皆が渡りきると、兄はも一度片方の梯子《はしご》を登り初めた。教師は赧《あか》くなって兄を叱った。兄は微笑しながら、だいじょうぶですと言った。そして登っていった。
三分の一ほど行くと、彼はまた重心を失って、危く腹這《はらば》いになった。下から仰ぎ見
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