、のが聞えた。
ガタンと一つ小石に躍って、車は行過ぎて了う。
跡は両側の子供が又|続々《ぞろぞろ》と動き出し、四辺《あたり》が大黒帽に飛白《かすり》の衣服《きもの》で紛々《ごたごた》となる中で、私一人は佇立《たちどま》ったまま、茫然として轅棒《かじぼう》の先で子供の波を押分けて行くように見える車の影を見送っていた。
と、誰だか私の側《そば》へ来て、何か言う。顔は見覚えのある家《うち》の近所の何とかいう児だが、言ってる事が分らない。私は黙って其面《そのかお》を視たばかりで、又|窃《そっ》と車の行った方角を振向いて見ると、最う車は先の横町を曲ったと見えて、此方《こちら》を向いて来る沢山の子供の顔が見えるばかりだ。
「ねえ、君、君ン所《とこ》のポチも殺されたかも知れないぜ。」
という声が此時ふと耳に入って、私はハッと我に反《かえ》ると、
「啌《うそ》だい! 殺されるもんか! 札が附いてるもの……」
と狼狽《あわて》て打消てから、始めて木村の賢ちゃんという児と話をしている事が分った。
「やあ……札が附いてたって、殺されますから。へえ。僕ン所《とこ》の阿爺《おとっ》さんが……」
と賢
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