莓揩オて半分以上残したのが、チャンと弁当箱に入っている。早く帰ってこれが喫《たべ》させたかったので、待憧《まちこが》れた放課の鐘が鳴るや、大急ぎで学校の門を出て、友達は例の通り皆道草を喰っている中を、私一人は切々《せっせ》と帰って来ると、俄《にわか》に行手がワッと騒がしくなって、先へ行く児《こ》が皆|雪崩《なだ》れて、ドッと道端《みちばた》の杉垣へ片寄ったから、驚いてヒョイと向うを見ると、ツイ四五間先を荷車が来る。瞥《ちら》と見たばかりでは何の車とも分らなかった。何でも可なり大きな箱車《はこぐるま》で、上から菰《こも》を被《かぶ》せてあったようだったが、其を若い土方風の草鞋穿《わらじばき》の男が、余り重そうにもなく、※[#「勹/夕」、第3水準1−14−76]々《さっさ》と引いて来る。車に引添《ひっそ》うてまだ一人、四十許りの、四角な面《かお》の、茸々《もじゃもじゃ》と髭《ひげ》の生えた、人相の悪い、矢張《やっぱり》草鞋穿《わらじばき》の土方風の男が、古ぼけて茶だか鼠だか分らなくなった、塵埃《ほこり》だらけの鉢巻もない帽子を阿弥陀《あみだ》に冠《かぶ》って、手ぶらで何だか饒舌《しゃべ》り
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