sかんしょく》ばかり貪《むさぼ》っている。以前から私の家《うち》の掃溜《はきだめ》へも能《よ》く立廻《たちまわ》って来て、馴染《なじみ》の犬共ではあるけれど、ポチを飼うようになってからは、尚お頻繁《ひんぱん》に立廻って来る。ポチの喫剰《たべあま》しを食いに来るので。
 ポチは大様《おおよう》だから、余処《よそ》の犬が自分の食器へ首を突込んだとて、怒《おこ》らない。黙って快く食わせて置く。が、他《ひと》の食うのを見て自分も食気附《しょくきづ》く時がある。其様《そん》な時には例の無邪気で、うッかり側《そば》へ行って一緒に首を突込もうとする。無論先の犬は、馳走になっている身分を忘れて、大《おおい》に怒《いか》って叱付ける。すると、ポチは驚いて飛退《とびの》いて、不思議そうに小首を傾《かし》げて、其ガツガツと食うのを黙って見ている。
 父は馬鹿だと言うけれど、馬鹿気て見える程無邪気なのが私は可愛《かわ》ゆい。尤も後《のち》には悪友の悪感化を受けて、友達と一緒に近所の掃溜《はきだめ》へ首を突込み、鮭《しゃけ》の頭を舐《しゃぶ》ったり、通掛《とおりがか》りの知らん犬と喧嘩したり、屑拾いの風体を怪し
前へ 次へ
全207ページ中52ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
二葉亭 四迷 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング