w校を除籍せられた時、父が学資の仕送りを絶ったのは、斯《こう》もしたら或は帰って来るかと思ったからだ。ところが、私が如何《どう》にか斯うにか取続《とりつづ》いて帰らなかったので、両親は独息子《ひとりむすこ》を玉《たま》なしにしたように歎いて、父の白髪《しらが》も其時分僅の間《あいだ》に滅切《めっき》り殖《ふ》えたと云う。伯父が見兼ねて、態々《わざわざ》上京して、もう小説家になるなとは言わぬ、唯是非一度帰省して両親の心を安めろと懇《ねんごろ》に諭《さと》して呉れた。そう言われて見ると、夫《それ》でもとも言兼ねて、私は其時伯父に連れられて久振で帰省したが、父の面《かお》を見るより、心配を掛けた詫をする所《どころ》か、卒然《いきなり》先ず文学の貴《たっと》い所以《ゆえん》を説いて聴かせて、私は堕落したのじゃない、文学に於て向上の一路を看出《みいだ》したのだ、堕落なんぞと思われては心外だと喰って懸ると、気の練れた父は敢て逆《さから》わずに、昔者《むかしもの》の己《おれ》には然ういう六《むず》かしい事は分らぬから、己《おれ》はもう何にも言わぬ、お前の思う通りにしろだが、東京へ出てから二年許りの間
前へ 次へ
全207ページ中187ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
二葉亭 四迷 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング