pを達《た》しに行《い》こうと思って、ヒョイと私が部屋を出ると、何時《いつ》来たのか、お糸さんがツイ其処で、着物の裾をクルッと捲《まく》った下から、華美《はで》な長襦袢だか腰巻だかを出し掛けて、倒《さか》さになって切々《せっせっ》と雑巾掛《ぞうきんが》けをしていた。私の足音に振向いて、お邪魔様といって、身を開いて通して呉れて、お糸さんは何とも思っていぬ様だったが、私は何だか気の毒らしくて、急いで二階を降りて了った。
 用を達《た》してから出て来て見ると、手水鉢《ちょうずばち》に水が無い。小女《ちび》は居ないかと視廻《みまわ》す向うへお糸さんが、もう雑巾掛《ぞうきんがけ》も済んだのか、バケツを提げてやって来たが、ト見ると、直ぐ気が附いて、
「おや、そうだッけ……只今直ぐ持って参りますよ。」
 と駈出して行って、台所から手桶を提げて来て、
「お待遠様。」
 とザッと水を覆《あ》ける時、何処の部屋から仕掛けたベルだか、帳場で気短に消魂《けたたま》しくチリリリリリンと鳴る。
 お神さんが台所から面《かお》を出して、
「誰も居ないのかい? 十番さんで先刻《さっき》からお呼なさるじゃないか。」

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