ニ《このうち》に下宿して居た。
 或日朝から出て昼過に帰ると、帳場に看慣《みな》れぬ女が居る。後向《うしろむき》だったから、顔は分らなかったが、根下《ねさが》りの銀杏返《いちょうがえ》しで、黒縮緬《くろちりめん》だか何だかの小さな紋の附いた羽織を着て、ベタリと坐ってる後姿が何となく好かったが、私がお神さんと物を言ってる間、其女は振向いても見ないで、黙って彼方《あちら》向いて烟草《たばこ》を喫《す》っていた。
 部屋へ来る跡から下女が火を持って来たから、捉《つか》まえて聞くと、今朝殆ど私と入違《いりちが》いに尋ねて来たのだそうで、何でもお神さんの身寄だとかで、車で手荷物なぞも持って来たから、地方の人らしいと云う。唯|其切《それぎり》で、下女の事だから要領を得ない。
「如何《どん》な女だい?」
「あら、今御覧なすったじゃ有りませんか?」
「後向《うしろむ》きで分らなかった。」
「別品《べっぴん》ですよ」、といって下女は莞爾々々《にこにこ》している。
「丸顔かい?」
「いいえ、細面《ほそおもて》でね……」
「色は如何《どん》なだい? 白いかい?」
 下女は黙って私の面《かお》を見ていたが、

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