獅フ好《い》い事を思って、友には内々《ないない》で種々《いろいろ》と奔走して見たが、如何《どう》しても文学の雑誌に手蔓《てづる》がない。其中《そのうち》に或人が其は既に文壇で名を成した誰《たれ》かに知己《ちかづき》になって、其人の手を経て持込むが好《い》いと教えて呉れたので、成程と思って、早速|手蔓《てづる》を求めて某大家の門を叩いた。
某大家は其頃評判の小説家であったから、立派な邸宅を構えていようとも思わなかったが、定めて瀟洒《しょうしゃ》な家《うち》に住って閑雅な生活をしているだろうと思って、根岸《ねぎし》の其宅を尋ねて見ると、案外見すぼらしい家《うち》で、文壇で有名な大家のこれが住居《すまい》とは如何《どう》しても思われなかった。家《うち》も見窄《みすぼ》らしかったが、主人も襟垢《えりあか》の附た、近く寄ったら悪臭《わるぐさ》い匂《におい》が紛《ぷん》としそうな、銘仙《めいせん》か何かの衣服《きもの》で、銀縁眼鏡《ぎんぶちめがね》で、汚い髯《ひげ》の処斑《ところまだら》に生えた、土気色をした、一寸《ちょっと》見れば病人のような、陰気な、くすんだ人で、ねちねちとした弁で、面《かお
前へ
次へ
全207ページ中144ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
二葉亭 四迷 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング