か、ウー」ト御意遊ばすと、昇も「左様で御座います、チト妙な貌をしております」ト申上げ、夫人が傍《かたわら》から「それでも狆はこんなに貌のしゃくんだ方が好いのだと申ます」ト仰《おっ》しゃると、昇も「成程|夫人《おくさま》の仰《おおせ》の通り狆はこんなに貌のしゃくんだ方が好いのだと申ます」ト申上げて、御愛嬌にチョイト狆の頭を撫《な》でて見たとか。しかし永い間には取外《とりはず》しも有ると見えて、曾て何かの事で些《すこ》しばかり課長殿の御機嫌を損ねた時は、昇はその当坐|一両日《いちりょうにち》の間、胸が閉塞《つかえ》て食事が進まなかッたとかいうが、程なく夫人のお癪《しゃく》から揉《もみ》やわらげて、殿さまの御肝癖も療治し、果は自分の胸の痞《つかえ》も押さげたという、なかなか小腕のきく男で。
 下宿が眼と鼻の間の所為《せい》か、昇は屡々《しばしば》文三の所へ遊びに来る。お勢が帰宅してからは、一段足繁くなって、三日にあげず遊びに来る。初とは違い、近頃は文三に対しては気に障わる事|而已《のみ》を言散らすか、さもなければ同僚の非を数えて「乃公《おれ》は」との自負自讃、「人間|地道《じみち》に事をする
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