い」
 お鍋|女郎《じょろう》は襖《ふすま》の彼方《あなた》から横幅《よこはば》の広い顔を差出《さしいだ》して、「ヘー」とモッケな顔付。
「アノネ、内の文さんは昨日《きのう》御免にお成りだッサ」
「ヘーそれは」
「どうしても働のある人《しと》は、フフン違ッたもんだヨ」
 ト半《なかば》まで言切らぬ内、文三は血相を変てツと身を起し、ツカツカと座舗《ざしき》を立出でて我|子舎《へや》へ戻り、机の前にブッ座ッて歯を噛切《くいしば》ッての悔涙《くやしなみだ》、ハラハラと膝へ濫《こぼ》した。暫《しば》らく有ッて文三は、はふり落ちる涙の雨をハンカチーフで拭止《ぬぐいと》めた……がさて拭ッても取れないのは沸返える胸のムシャクシャ、熟々《つらつら》と思廻《おもいめぐ》らせば廻らすほど、悔しくも又|口惜《くちお》しくなる。免職と聞くより早くガラリと変る人の心のさもしさは、道理《もっとも》らしい愚痴の蓋《ふた》で隠蔽《かく》そうとしても看透《みす》かされる。とはいえそれは忍ぼうと思えば忍びもなろうが、面《まの》あたりに意久地なしと言わぬばかりのからみ文句、人を見括《みくび》ッた一言《いちごん》ばかりは、如
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