また坐り、坐らんとしてはまた起《た》つ。腰の蝶番《ちょうつがい》は満足でも、胸の蝶番が「言ッてしまおうか」「言難いナ」と離れ離れに成ッているから、急には起揚《たちあが》られぬ……俄に蹶然《むっく》と起揚ッて梯子段《はしごだん》の下口《おりぐち》まで参ッたが、不図立止まり、些《すこ》し躊躇《ためら》ッていて、「チョッ言ッてしまおう」と独言《ひとりごと》を言いながら、急足《あしばや》に二階を降りて奥坐舗《おくざしき》へ立入る。
 奥坐舗の長手の火鉢《ひばち》の傍《かたわら》に年配四十|恰好《がっこう》の年増《としま》、些し痩肉《やせぎす》で色が浅黒いが、小股《こまた》の切上《きりあが》ッた、垢抜《あかぬ》けのした、何処ともでんぼう肌《はだ》の、萎《すが》れてもまだ見所のある花。櫛巻《くしま》きとかいうものに髪を取上げて、小弁慶《こべんけい》の糸織の袷衣《あわせ》と養老の浴衣《ゆかた》とを重ねた奴を素肌に着て、黒繻子《くろじゅす》と八段《はったん》の腹合わせの帯をヒッカケに結び、微酔機嫌《ほろえいきげん》の啣楊枝《くわえようじ》でいびつに坐ッていたのはお政で。文三の挨拶《あいさつ》するを見て
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