《ちが》いのあるのは服飾《みなり》。白木屋《しろきや》仕込みの黒物《くろいもの》ずくめには仏蘭西《フランス》皮の靴《くつ》の配偶《めおと》はありうち、これを召す方様《かたさま》の鼻毛は延びて蜻蛉《とんぼ》をも釣《つ》るべしという。これより降《くだ》っては、背皺《せじわ》よると枕詞《まくらことば》の付く「スコッチ」の背広にゴリゴリするほどの牛の毛皮靴、そこで踵《かかと》にお飾を絶《たや》さぬところから泥《どろ》に尾を曳《ひ》く亀甲洋袴《かめのこズボン》、いずれも釣《つる》しんぼうの苦患《くげん》を今に脱せぬ貌付《かおつき》。デモ持主は得意なもので、髭あり服あり我また奚《なに》をか※[#「不/見」、第3水準1−91−88]《もと》めんと済した顔色《がんしょく》で、火をくれた木頭《もくず》と反身《そっくりかえ》ッてお帰り遊ばす、イヤお羨《うらやま》しいことだ。その後《あと》より続いて出てお出でなさるは孰《いず》れも胡麻塩《ごましお》頭、弓と曲げても張の弱い腰に無残や空《から》弁当を振垂《ぶらさ》げてヨタヨタものでお帰りなさる。さては老朽してもさすがはまだ職に堪《た》えるものか、しかし日本服で
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