「アハハハ其奴《そいつ》は大笑いだ……しかし可笑しく思ッているのは鍋ばかりじゃア有りますまい、必《きっ》と母親《おっか》さんも……」
「母ですか、母はどうせ下等の人物ですから始終可笑しな事を言ッちゃアからかいますのサ。それでもネ、そのたんびに私が辱《はずか》しめ辱しめ為《し》い為いしたら、あれでも些とは耻《は》じたと見えてネ、この頃じゃアそんなに言わなくなりましたよ」
「ヘーからかう、どんな事を仰しゃッて」
「アノーなんですッて、そんなに親しくする位なら寧《むし》ろ貴君と……(すこしもじもじして言かねて)結婚してしまえッて……」
 ト聞くと等しく文三は駭然《ぎょっ》としてお勢の顔を目守《みつめ》る。されど此方《こなた》は平気の躰《てい》で
「ですがネ、教育のない者ばかりを責める訳にもいけませんヨネー。私の朋友《ほうゆう》なんぞは、教育の有ると言う程有りゃアしませんがネ、それでもマア普通の教育は享《う》けているんですよ、それでいて貴君、西洋主義の解るものは、二十五人の内に僅《たった》四人《よったり》しかないの。その四人《よったり》もネ、塾にいるうちだけで、外《ほか》へ出てからはネ、口
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