なく心嬉しくなって、莞爾《にっこり》した。それからは例の妄想《もうそう》が勃然《ぼつぜん》と首を擡《もた》げて抑えても抑え切れぬようになり、種々《さまざま》の取留《とりとめ》も無い事が続々胸に浮んで、遂には総《すべ》てこの頃の事は皆文三の疑心から出た暗鬼で、実際はさして心配する程の事でも無かったかとまで思い込んだ。が、また心を取直して考えてみれば、故無くして文三を辱《はずかし》めたといい、母親に忤《さから》いながら、何時しかそのいうなりに成ったといい、それほどまで親かった昇と俄に疏々《うとうと》しくなったといい、――どうも常事《ただごと》でなくも思われる。と思えば、喜んで宜いものか、悲んで宜いものか、殆ど我にも胡乱《うろん》になって来たので、あたかも遠方から撩《こそぐ》る真似をされたように、思い切っては笑う事も出来ず、泣く事も出来ず、快と不快との間に心を迷せながら、暫く縁側を往きつ戻りつしていた。が、とにかく物を云ったら、聞いていそうゆえ、今にも帰ッて来たら、今一度運を試して聴かれたらその通り、若し聴かれん時にはその時こそ断然叔父の家を辞し去ろうと、遂にこう決心して、そして一《ひ》と先
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