と投首《なげくび》をした。
が、その内にふと嬉しく思い惑う事に出遇《であ》ッた。というは他の事でも無い、お勢が俄《にわか》に昇と疎々《うとうと》しくなった、その事で。それまではお勢の言動に一々目を注《つ》けて、その狂う意《こころ》の跟《あと》を随《した》いながら、我も意《こころ》を狂わしていた文三もここに至って忽《たちま》ち道を失って暫く思念の歩《あゆみ》を留《とど》めた。あれ程までにからんだ両人《ふたり》の関繋が故なくして解《ほつ》れてしまう筈《はず》は無いから、早まって安心はならん。けれど、喜ぶまいとしても、喜ばずにはいられんはお勢の文三に対する感情の変動で、その頃までは、お政程には無くとも、文三に対して一種の敵意を挟《さしはさ》んでいたお勢が俄に様子を変えて、顔を※[#「赤+報のつくり」、216−13]《あか》らめ合《あっ》た事は全く忘れたようになり、眉《まゆ》を皺《しか》め眼の中《うち》を曇らせる事はさて置き、下女と戯《たわぶ》れて笑い興じている所へ行きがかりでもすれば、文三を顧みて快気《こころよげ》に笑う事さえ有る。この分なら、若し文三が物を言いかけたら、快く返答するかと思
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