「これからは真個《ほんとう》に慈母さんの言事を聴いて、モウ余《あんま》り文三と口なんぞお聞きでないよ」
「誰が聞てやるもんか」
「文三ばかりじゃ無い、本田さんにだッてもそうだよ。あんなに昨夜《ゆうべ》のように遠慮の無い事をお言いでないよ。ソリャお前の事だからまさかそんな……不埒《ふらち》なんぞはお為《し》じゃ有るまいけれども、今が嫁入前で一番大事な時だから」
「慈母さんまでそんな事を云ッて……そんならモウこれから本田さんが来たッて口もきかないから宜い」
「口を聞くなじゃ無いが、唯|昨夜《ゆうべ》のように……」
「イイエイイエ、モウ口も聞かない聞かない」
「そうじゃ無いと云えばネ」
「イイエ、モウ口も聞かない聞かない」
 ト頭振《かぶ》りを振る娘の顔を視て、母親は、
「全《まる》で狂気《きちがい》だ。チョイと人が一言いえば直《すぐ》に腹を立《たっ》てしまッて、手も附けられやアしない」
 ト云い捨てて起上《たちあが》ッて、部屋を出てしまッた。
[#改丁]

   第三編


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 浮雲第三篇ハ都合に依ッて此雜誌へ載せる事にしました。
 固《も》と此小説ハつまらぬ事を種に
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