に独語《ひとりごと》のように、
「人に問詰められて逃るなんぞと云ッて、実にひ、ひ、卑劣極まる」
「何ですと、卑劣極まると……宜う御座んす、そんな事お言いなさるなら匿《かく》したッて仕様がない、言てしまいます……言てしまいますとも……」
 ト云ッてスコシ胸を突立《つきだ》して、儼然《きッ》として、
「ハイ本田さんは私の気に入りました……それがどうしました」
 ト聞くと文三は慄然《ぶるぶる》と震えた、真蒼《まッさお》に成ッた……暫らくの間は言葉はなくて、唯恨めしそうにジッとお勢の澄ました顔を凝視《みつ》めていた、その眼縁《まぶち》が見る見るうるみ出した……が忽ちはッと気を取直おして、儼然《きッ》と容《かたち》を改めて、震声《ふるえごえ》で、
「それじゃ……それじゃこうしましょう、今までの事は全然《すッかり》……水に……」
 言切れない、胸が一杯に成て。暫らく杜絶《とぎ》れていたが思い切ッて、
「水に流してしまいましょう……」
「何です、今までの事とは」
「この場に成てそうとぼけなくッても宜いじゃ有りませんか。寧《いッ》そ別れるものなら……綺麗《きれい》に……別れようじゃ……有りませんか……
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