《そむ》けたが、忽《たちま》ちまたキッとお勢の方を振向いて、
「何時《いつ》か貴嬢何と仰しゃッた、本田が貴嬢に対《むか》ッて失敬な情談を言ッた時に……」
「そりゃあの時には厭な感じも起ッたけれども、能《よ》く交際して見ればそんなに貴君のお言いなさるように破廉耻《はれんち》の人じゃ有りませんワ」
文三は黙然《もくねん》としてお勢の顔を凝視めていた、但《ただ》し宜《よろ》しくない徴候で。
「昨夜《ゆうべ》もアレから下へ降りて、本田さんがアノー『慈母《おっか》さんが聞《きく》と必《きっ》と喧《やか》ましく言出すに違いない、そうすると僕は何だけれどもアノ内海が困るだろうから黙ッていてくれろ』と口止めしたから、私は何とも言わなかッたけれども鍋がツイ饒舌《しゃべ》ッて……」
「古狸奴《ふるだぬきめ》、そんな事を言やアがッたか」
「またあんな事を云ッて……そりゃ文さん、貴君が悪いよ。あれ程貴君に罵詈《ばり》されても腹も立てずにやっぱり貴君の利益を思ッて云う者を、それをそんな古狸なんぞッて……そりゃ貴君は温順だのに本田さんは活溌《かっぱつ》だから気が合わないかも知れないけれども、貴君と気の合わないも
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