ばと云ッて苦しいと云ッて、昇に、面と向ッて図《ず》大柄《おおへい》に「痩我慢なら大抵にしろ」ト云ッた昇に、昨夜も昨夜とて小児の如くに人を愚弄して、陽《あらわ》に負けて陰《ひそか》に復《かえ》り討に逢わした昇に、不倶戴天《ふぐたいてん》の讎敵《あだ》、生ながらその肉を啖《くら》わなければこの熱腸が冷されぬと怨みに思ッている昇に、今更手を杖《つ》いて一|着《ちゃく》を輸《ゆ》する事は、文三には死しても出来ぬ。課長に取入るも昇に上手を遣《つか》うも、その趣きは同じかろうが同じく有るまいが、そんな事に頓着《とんじゃく》はない。唯是もなく非もなく、利もなく害もなく、昇に一着を輸する事は文三には死しても出来ぬ。
 ト決心して見れば叔母の意見に負《そむ》かなければならず、叔母の意見に負くまいとすれば昇に一着を輸さなければならぬ。それも厭なりこれも厭なりで、二時間ばかりと云うものは黙坐して腕を拱《く》んで、沈吟して嘆息して、千思万考、審念熟慮して屈托して見たが、詮《せん》ずる所は旧《もと》の木阿弥《もくあみ》。
「ハテどうしたものだろう」
 物皆終あれば古筵《ふるむしろ》も鳶《とび》にはなりけり。久し
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