カシこのままにして捨置けば将来|何等《どん》な傷心恨《かなしい》事が出来《しゅったい》するかも測られぬ。一念ここに至る毎《ごと》に、文三は我《が》も折れ気も挫《く》じけてそして胸膈《むね》も塞《ふさ》がる。
 こう云う矢端《やさき》には得て疑心も起りたがる。縄麻《じょうま》に蛇相《じゃそう》も生じたがる、株杭《しゅこう》に人想《にんそう》の起りたがる。実在の苦境《くぎょう》の外に文三が別に妄念《もうねん》から一|苦界《くがい》を産み出して、求めてその中《うち》に沈淪《ちんりん》して、あせッて※[#「足へん+宛」、第3水準1−92−36]《もが》いて極大《ごくだい》苦悩を甞《な》めている今日この頃、我慢|勝他《しょうた》が性質《もちまえ》の叔母のお政が、よくせきの事なればこそ我から折れて出て、「お前さんさえ我《が》を折れば、三方四方円く納まる」ト穏便をおもって言ッてくれる。それを無面目にも言破ッて立腹をさせて、我から我他彼此《がたびし》の種子《たね》を蒔《ま》く……文三そうは為《し》たく無い。成ろう事なら叔母の言状を立ててその心を慰めて、お勢の縁をも繋《つな》ぎ留めて、老母の心をも安めて
前へ 次へ
全294ページ中206ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
二葉亭 四迷 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング