より余所《よそ》外《ほか》のおぼッちゃま方とは違い、親から仕送りなどという洒落《しゃれ》はないから、無駄遣《むだづか》いとては一銭もならず、また為《し》ようとも思わずして、唯《ただ》一心に、便《たより》のない一人の母親の心を安めねばならぬ、世話になった叔父へも報恩《おんがえし》をせねばならぬ、と思う心より、寸陰を惜んでの刻苦勉強に学業の進みも著るしく、何時の試験にも一番と言ッて二番とは下《さが》らぬ程ゆえ、得難い書生と教員も感心する。サアそうなると傍《はた》が喧《やか》ましい。放蕩《ほうとう》と懶惰《らんだ》とを経緯《たてぬき》の糸にして織上《おりあがっ》たおぼッちゃま方が、不負魂《まけじだましい》の妬《ねた》み嫉《そね》みからおむずかり遊ばすけれども、文三はそれ等の事には頓着《とんじゃく》せず、独りネビッチョ除《の》け物と成ッて朝夕勉強|三昧《ざんまい》に歳月を消磨する内、遂に多年|蛍雪《けいせつ》の功が現われて一片の卒業証書を懐《いだ》き、再び叔父の家を東道《あるじ》とするように成ッたからまず一安心と、それより手を替え品を替え種々《さまざま》にして仕官の口を探すが、さて探すとなると
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