こっち》に関繋《くいあい》の無い事だから誰も腹も背も立ちゃしないけれども、唯本田さんがアアやッて信切に言ッておくンなさるもんだから、周旋《とりもっ》て貰《もら》ッて課長さんに取入ッて置きゃア、仮令《よし》んば今度の復職とやらは出来ないでも、また先へよって何ぞれ角《か》ぞれお世話アして下さるまいものでも無いトネー、そうすりゃ、お前さんばかしか慈母《おっか》さんも御安心なさる事《こっ》たシ、それに……何だから『三方四方』円く納まる事《こっ》たから(この時文三はフット顔を振揚げて、不思議そうに叔母を凝視《みつ》めた)ト思ッて、チョイとお聞き申したばかしさ。けれども、ナニお前さんがそうした了簡方《りょうけんかた》ならそれまでの事サ」
 両人共|暫《しば》らく無言。
「鍋」
「ハイ」
 トお鍋が襖《ふすま》を開けて顔のみを出した。見れば口をモゴ付かせている。
「まだ御膳《ごぜん》を仕舞わないのかえ」
「ハイ、まだ」
「それじゃ仕舞ッてからで宜《い》いからネ、何時《いつ》もの車屋へ往ッて一人乗|一挺《いっちょう》誂《あつ》らえて来ておくれ、浜町《はまちょう》まで上下《じょうげ》」
「ハイ、それでは
前へ 次へ
全294ページ中198ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
二葉亭 四迷 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング