いて》だ。ドレまずこの肥満奴《ふとっちょ》から」
(鍋)「アラ私《わたくし》じゃ有りませんよ、オホホホホ。アラ厭《いや》ですよ……アラー御新造《ごしんぞ》さアん引[#「引」は小書き右寄せ]」
ト大声を揚げさせての騒動、ドタバタと云う足音も聞えた、オホホホと云う笑声も聞えた、お勢の荐《しき》りに「引掻《ひっかい》てお遣《や》りよ、引掻て」ト叫喚《わめ》く声もまた聞えた。
騒動《さわぎ》に気を取られて、文三が覚えず立止りて後方《うしろ》を振向く途端に、バタバタと跫音《あしおと》がして、避ける間もなく誰だかトンと文三に衝当《つきあた》ッた。狼狽《あわて》た声でお政の声で、
「オー危ない……誰だネーこんな所《とこ》に黙ッて突立ッてて」
「ヤ、コリャ失敬……文三です……何処《どこ》ぞ痛めはしませんでしたか」
お政は何とも言わずにツイと奥坐舗へ這入りて跡ピッシャリ。恨めしそうに跡を目送《みおく》ッて文三は暫らく立在《たたずん》でいたが、やがて二階へ上ッて来て、まず手探りで洋燈《ランプ》を点じて机辺《つくえのほとり》に蹲踞《そんこ》してから、さて、
「実に淫哇《みだら》だ。叔母や本田は論ずるに
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