普sでたち》の少年を顧みて、
「ダガ何か食《くい》たくなったなア」
「食たくなった」
「食たくなってもか……」
 ト愚痴ッぽく言懸けて、フトお政と顔を視合わせ、
「ヤ……」
「オヤ勇《いさみ》が……」
 ト云う間もなく少年は駈《かけ》出して来て、狼狽《あわ》てて昇に三ツ四ツ辞儀をして、サッと赤面して、
「母親《おっか》さん」
「何を狼狽《あわ》てて[#「狼狽《あわ》てて」は底本では「狼狙《あわ》てて」]いるんだネー」
「家《うち》へ往ったら……鍋に聞いたら、文さんばッかだッてッたから、僕ア……それだから……」
「お前、モウ試験は済んだのかえ」
「ア済んだ」
「どうだッたえ」
「そんな事よりか、些《すこ》し用が有るから……母親さん……」
 ト心有気《こころありげ》に母親の顔を凝視《みつ》めた。
「用が有るなら茲処《ここ》でお言いな」
 少年は横目で昇の顔をジロリと視て、
「チョイと此方《こっち》へ来ておくれッてば」
「フンお前の用なら大抵知れたもんだ、また『小遣いが無い』だろう」
「ナニそんな事《こっ》ちゃない」
 ト云ッてまた昇の顔を横眼で視て、サッと赤面して、調子外れな高笑いをして、
前へ 次へ
全294ページ中127ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
二葉亭 四迷 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング