》始末にゆかぬ浮雲めが艶《やさ》しき月の面影を思い懸《がけ》なく閉籠《とじこめ》て黒白《あやめ》も分かぬ烏夜玉《うばたま》のやみらみっちゃな小説が出来しぞやと我ながら肝を潰《つぶ》してこの書の巻端に序するものは
明治|丁亥《ひのとい》初夏
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[#地から2字上げ]二葉亭四迷
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浮雲第一篇序
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古代の未《いま》だ曾《かつ》て称揚せざる耳馴《みみな》れぬ文句を笑うべきものと思い又は大体を評し得ずして枝葉の瑕瑾《かきん》のみをあげつらうは批評家の学識の浅薄なるとその雅想なきを示すものなりと誰人にやありけん古人がいいぬ今や我国の文壇を見るに雅運日に月に進みたればにや評論家ここかしこに現われたれど多くは感情の奴隷にして我好む所を褒《ほ》め我|嫌《きら》うところを貶《おと》すその評判の塩梅《あんばい》たる上戸《じょうご》の酒を称し下戸の牡丹餅《ぼたもち》をもてはやすに異ならず淡味家はアライを可とし濃味家は口取を佳とす共に真味を知る者にあらず争《いか》でか料理通の言なりというべき就中《なかんずく》小説の如《ごと》きは元来そ
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