立派な官員さん」でも夫に持ッて親に安楽をさせることで有ろうと云ッて、嘲《あざ》けるように高く笑う。見よう見真似に娘までが、お勢の方を顧みて、これもまた嘲けるようにほほと笑う。お勢はおそろしく赤面してさも面目なげに俯向いたが、十分も経《たた》ぬうちに座舗《ざしき》を出てしまッた。我部屋へ戻りてから、始めて、後馳《おくればせ》に憤然《やッき》となッて「一生お嫁になんぞ行くもんか」と奮激した。
 客は一日打くつろいで話して夜《よ》に入《い》ッてから帰ッた。帰ッた後に、お政はまた人の幸福《しあわせ》をいいだして羨やむので、お勢はもはや勘弁がならず、胸に積る昼間からの鬱憤《うっぷん》を一時に霽《はら》そうという意気込で、言葉鋭く云いまくッてみると、母の方にも存外な道理が有ッて、ついにはお勢も成程と思ッたか、少し受大刀《うけだち》になッた。が、負けじ魂から、滅多には屈服せず、尚おかれこれと諍論《いいあらそ》ッている。そのうちにお政は、何か妙案を思い浮べたように、俄《にわか》に顔色《がんしょく》を和げ、今にも笑い出しそうな眼付をして、「そんな事をお云いだけれども、本田さんなら、どうだえ? 本田さんでも、お嫁に行くのは厭かえ?」という。「厭なこった」、と云ッて、お勢は今まで顔へ出していた思慮を尽《ことごと》く内へ引込ましてしまう。「おや、何故だろう。本田さんなら、いいじゃないか、ちょいと気が利《き》いていて、小金も少《ちっ》とは持ッていなさりそうだし、それに第一男が好くッて」「厭なこッた」「でも、若し本田さんがくれろと云ッたら、何と云おう?」、と云われて、お勢は少し躊躇《たゆた》ッたが、狼狽《うろた》えて、「い……いやなこッた」。お政はじろりとその様子をみて、何を思ッてか、高く笑ッたばかりで、再び娘を詰《なじ》らなかッた。その後《のち》はお勢は故《ことさ》らに何喰わぬ顔を作ッてみても、どうも旨《うま》くいかぬようすで、動《やや》もすれば沈んで、眼を細くして何処か遠方を凝視《みつ》め、恍惚《うっとり》として、夢現《ゆめうつつ》の境に迷うように見えたことも有ッた。「十一時になるよ」と母親に気を附けられたときは、夢の覚めたような顔をして溜息《ためいき》さえ吐《つ》いた。
 部屋へ戻ッても、尚お気が確かにならず、何心なく寐衣《ねまき》に着代えて、力無さそうにベッたり、床の上へ坐ッたまま、身
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