うと何だか言葉を弄するような嫌いがあるが、つまり具体的の一箇の人じゃなくて、ある一種の人が人生に対する態度だ、而《そ》してその一種の人とは即ち文学者……必ずしも今の文学者ばかりじゃなく、凡そ人間在って以来の文学者という意味も幾らか含ませたつもりだ。だから今度の作では那様《そんな》関係ばかりを眼に見ていて、人間を活躍させようなんぞという気もなけりゃ、従って活躍もしなかった。これが「其面影」と「平凡」とを創作した時の、私の態度の違いさ。
 だが、要するに、書いていてまことにくだらない[#「くだらない」に傍点]。子供が戦争《いくさ》ごッこをやッたり、飯事《ままごと》をやる、丁度そう云った心持だ。そりゃ私の技倆が不足な故《せい》もあろうが、併しどんなに技倆が優れていたからって、真実《ほんと》の事は書ける筈がないよ。よし自分の頭には解っていても、それを口にし文にする時にはどうしても間違って来る、真実《ほんと》の事はなかなか出ない、髣髴として解るのは、各自《めいめい》の一生涯を見たらばその上に幾らか現われて来るので、小説の上じゃ到底|偽《うそ》ッぱちより外書けん、と斯う頭から極めて掛っている所があ
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