ッて――どうも虫が好かぬ。長たらしい茎へ無器用にヒッつけたような薄きたない円葉をうるさく振りたてて――どうも虫が好かぬ。この樹の見て快よい時といっては、ただ背びくな灌木の中央に一段高く聳《そび》えて、入り日をまともに受け、根本より木末に至るまでむらなく樺色に染まりながら、風に戦《そよ》いでいる夏の夕暮か、――さなくば空|名残《なご》りなく晴れわたッて風のすさまじく吹く日、あおそらを影にして立ちながら、ザワザワざわつき、風に吹きなやまされる木の葉の今にも梢をもぎ離れて遠く吹き飛ばされそうに見える時かで。とにかく自分はこの樹を好まぬので、ソコデその白楊の林には憩わず、わざわざこの樺の林にまで辿《たど》りついて、地上わずか離れて下枝の生えた、雨|凌《しの》ぎになりそうな木立を見たてて、さてその下に栖《すみか》を構え、あたりの風景を跳めながら、ただ遊猟者のみが覚えのあるという、例の穏かな、罪のない夢を結んだ。
何ン時ばかり眠ッていたか、ハッキリしないが、とにかくしばらくして眼を覚ましてみると、林の中は日の光りが到らぬ隈《くま》もなく、うれしそうに騒ぐ木の葉を漏れて、はなやかに晴れた蒼空がまる
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