しばらくたッた……「アクーリナ」はようやく涙をとどめて、頭を擡《もた》げて、跳り上ッて、あたりを視まわして、手を拍《うっ》た、跡を追ッて駈けだそうとしたが、足が利かない――バッタリ膝をついた……モウ見るに見かねた、自分は木蔭《こかげ》を躍りでて、かけよろうとすると、「アクーリナ」はフト振りかえッて自分の姿を見るやいなや、たちまち忍び音にアッと叫びながら、ムックと跳《は》ね起きて、木の間へ駈け入ッた、かと思うとモウ姿は見えなくなった。草花のみは取り残されて、歴乱としてあたりに充《み》ちた。
 自分はたちどまった、花束を拾い上げた、そして林を去ッてのらへ出た。日は青々とした空に低く漂ッて、射す影も蒼さめて冷かになり、照るとはなくてただジミな水色のぼかしを見るように四方に充ちわたツた。日没にはまだ半時間もあろうに、モウゆうやけがほの赤く天末を染めだした。黄ろくからびた刈科《かりかぶ》をわたッて烈しく吹きつける野分《のわき》に催されて、そりかえッた細かな落ち葉があわただしく起き上り、林に沿うた往来を横ぎって、自分の側を駈け通ッた、のらに向いて壁のようにたつ林の一面はすべてざわざわざわつき、細末
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