ヘルマー えゝと、いつも金を撒き散らしてる者を何とかいつたつけな。
ノラ 知つてますよ、無駄使家といふんでせう。けれどもね、あなた。どうかさうして下さいよ。さうすると何が一番先に買ひたいか、私ゆつくりと考へますわ、その方が利口でせう?
ヘルマー (微笑しながら)全くさうだ。たゞお前が自分の物を買ふ時までその金を持つていられゝばいゝがさ。みんな家の用だの下らない買物だのに無くしてしまつて、そして私がせびられるんだからな。
ノラ まあ、あなた。
ヘルマー 嘘だといふのかい? (女を片手に抱いて)こんな可愛らしい雲雀が隨分と物凄く金を使ふものだ。お前ほどの小鳥を一羽飼ふためにどれ位金がかゝるか人にいつたつて本當にはしないからねえ。
ノラ およしなさいよ、そんなこと。私、殘せるだけは殘しますわ。
ヘルマー (笑ひながら)よかつたね――殘せるだけ殘しますは――所が一向殘せません。
ノラ (得意さうな體で鼻唄、にこ/\しながら)ふむ、私のやうな雲雀や栗鼠がどの位お金を使ふか、今にわかるでせうよ。
ヘルマー お前は不思議な人間だ。丁度お前のお父つあんのやうだ。いつも金ばかり欲しがつてゐて、それで金
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