が手に入ると、もう指の間からでもこぼすやうに無くしてしまふ。何に使ふんだかわかりやしない。が、まあいゝさ、ま、お前はいつまでも、お前でゐて貰ひたいな、かうやつて可愛らしい小鳥のやうに囀つてね。おや何だかお前は變に怪しいぜ、今日は。
ノラ 私?
ヘルマー あゝ、さうだ。こつちを向いて御覽。
ノラ (夫の方を見ながら)はい。
ヘルマー (指でつゝく眞似をしながら)此奴、今日はいけないといふ物を食べたな。
ノラ 嘘ですよ、ひどい人。
ヘルマー 菓子屋をちよつぴり覗きやしなかつたか?
ノラ 嘘ですよ、あなた、本當に。
ヘルマー ゼリーを一なめやりはしなかつたか?
ノラ 嘘、誰がそんなことをするものですか。
ヘルマー パン菓子を一つ二つ摘みやあしなかつたか。
ノラ 嘘ですつてばねえ。
ヘルマー よし/\、冗談だよ。
ノラ (右の上手のテーブルの方へ行き品を包む)あなたがいけないといふことを何で私がするものですか。
ヘルマー さうだらう/\。お前は誓つたんだものな(女の方へ行きながら)ぢやあ、まあお前が企んでることはクリスマスの祕密として取つとくさ。今にクリスマス・ツリーにあかりをつければみんなわ
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