^びになりませう。眞面目な劇で、近代の家庭状態、ことに結婚とからんだ諸問題を取り扱ふ、本當の家庭劇です。」
と書いてある。たゞこんな結婚問題、家庭問題、婦人問題をとほして、その上に一段奧深い人生問題の氣持を加へたものと見ればよい。この種の思想なり問題なりは、藝術の中の粘着性となり眞實性となつて殘留する。普通の娯樂的藝術にはこの粘着性と眞實性とがない。感興藝術、情緒の遊戲、感情發散機關、これらの意味を有する娯樂的藝術と眞の藝術との間には、踰ゆべからざる、類の相違がある。
三
『人形の家』の骨子となつてゐる着想は、早く十年前すなはち千八百六十九年の彼れの作『青年同盟』に現はれてゐる。傳記家イェーゲル氏は更にこれをその前の作『ペール・ギュント』に求めて、ヘルマーがノラに對する利己的性質は、ペール・ギュントがアニトラの愛に對する心持と同じであるとしてゐる(Henrik Ibsen : Jaeger)が、しかし中心人物たるノラの方からみた、婦人問題としての端緒はこゝにない。やはりこれを『青年同盟』に尋ぬべきである。すなはちその第三幕の終りで、ゼルマが夫のエーリック及びその父と
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