Iの全部ではありません。私の仕事は「人間の描寫」といふことでありました。勿論、かういふ描寫が合理的に眞實だと思はれると、讀者は自分の感情や氣持をその詩人の作中に※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]入して、それ等がみんな詩人のものであつたことになりますが、しかしそれは間違ひです。すべて讀者は皆てんでんの人格に從つて、その作を非常に美しい、綺麗なものに作りかへてしまひます。ただに作者ばかりでなく、讀者もまた詩人なのでありまして、彼等は作家の助手であり、時としては詩人みづからよりも一層詩的なのであります。(下略)」
といつたのは、その「人間の描寫」といふことで、人生問題を暗示する意味を述べたものとみられる。けれどもそれと同時に、婦人問題を婦人問題として材料に用ふることも、初めからのイブセンの計畫であつたことは明かである。千八百七十九年すなはちこの劇の出來る年の七月、ローマからゴッス氏に宛てて送つた手紙は、
「小生は去る九月から家族とともにこの地にをります、そして大部分の時間は新に作りかけてゐる劇のことで塞いでゐます、もう間もなく出來上つて、十月には出版の
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