やつる針金の用ひられなくなつた第一の作である。」といつたのは當つてゐる。一歩を進めては、この針金の用ひられなくなつた第一の近代劇であるともいへる。もとよりまだその後の作のごとく完全の描寫法とはいへない。事件の湊合せられる距離がおそろしく短くて、初めの幕の邊では、巧みに面白く出來てはゐるが、まだよほど實人生の不可避性と遠ざかつてゐる。しかし驚くべき最後の幕において、ノラが出て行く支度をして寢室から立ち出で、ヘルマーと見物とを驚倒せしめるところ、悶へてゐる夫婦が卓を圍み面と向つて對決する邊にくると、人をして始めて、劇壇に新しきもの生れたりといふ感をおこさせる。同時にいはゆる「うまく作つた芝居」は、俄然としてアン女王の死のやうに死んでしまつた。凄愴なまでに生の力の強烈にあらはれてゐることは、この最後の幕において驚くばかりである。昔のめでたい終局は始めて全然抛棄せられ、人生の矛盾が少しの容赦もなく出てきた。『人形の家』が非凡の演劇であつたことをあんなに突然認められたのは珍らしいことである。ノラの「獨立宣言」は全スカンヂナヴ※[#小書き片仮名ヰ、131−16]アに響き渡つた。人々は毎夜々々興奮
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