とき、ヘルマーは看護婦姿のノラをそれと心づき、こゝにめでたく仲なほりして夫婦元どほりになるといふ筋であるといふ。
 その他『人形の家』を滑稽の材料にしたパロデ※[#小書き片仮名ヰ、142−13]ーの類では、千八百九十三年に出來た『ポンチ氏の袖珍イブセン』(Mr. Punch's Pocket Ibsen : F. Anstey)が最も有名で『人形の家』のほかに『ロスメルスホルム』『ヘッダ・ガブレル』『鴨』『建築師』等の作りかへをも加へてある。

       七

 これ等は要するに眞面目に論ずべきものでないが、「妻として夫や子供を棄てる法はない」といふ批難に對して、イブセンが作の上で一種の答辯を與へたものと評せられるのは、『人形の家』につづいて出た『幽靈』である。『幽靈』ではアルヴ※[#小書き片仮名ヰ、143−2]ング夫人が、放埓な夫を棄て子供を棄てゝ家を出ようとしたが、思ひ直して家に留り、家庭の罪惡を子供にも世間にも知らせないやうに、一身を犧牲にしてこれを糊塗してゐた。けれども最後になつて、愛子オスワルドは父の放蕩の報ひを受けて無殘の死を遂げ、一家悲慘の運命に終る。ノラもあの時決心
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