ャえかねて旅行鞄を落して)あゝ、私、自分にはすまないけれど、このまゝ振りすてゝは行かれない(戸の前に半ば體を沈める)
ヘルマー (喜ぶ、優しい聲で)ノラ! (幕)
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かういふ改作が原文の精神を破壞して淺薄なものにしてしまふことは云ふまでもない。であるから、イブセンは已むを得ずして書いたこの改作に關し、次のやうな手紙をヴ※[#小書き片仮名ヰ、139−8]インの一劇場監督者ハインリヒ・ラウベ(Heinrich Laube)に送つた。
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千八百八十年二月十八日、ミュンヘンにて
拜啓――小生の近作『人形の家』が令名ある貴下の監督の下に「ヴ※[#小書き片仮名ヰ、139−11]イン市劇場」にて開演せられ候由承り大悦罷在り候。
貴下はこの劇がその結末の彼れが如くなる故をもつて正當にいはゆる「劇」の法則に合ひたるものに非ずとの御意見の由、しかしながら、貴下は眞に法則といふが如きものに多くの價値をおかれ候哉。小生の考へにては、劇の法則は如何やうにも變ぜられ得べく、法則をして文藝上の事實にこそ從はしむべけれど、逆に文藝をして法則に從はしむべきものに非ず
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