ナなく、たゞ自分にはもう解決の氣力がなくなつたといつて悲しく歸つてきたのであるから、實は答でなくして問題はそのまゝ殘つてゐるのである。
五
それに比べれば、イブセンが通俗趣味に強要せられて結末を變更した、有名な改作の『人形の家』では、親子の愛といふもので解決を與へて、問題を問題としないうちに揉み消してしまつた。今その改作された結末を譯載すると、本書一二六頁の十六行目以下が次のやうに變はる。
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ノラ 二人の仲が本當の結婚にならなくてはなりません。左樣なら!
ヘルマー しかたがない――行け!(ノラの手を把つて)併しその前に子供にあつて暇乞をしなくちやいけない!
ノラ 放して下さい! 私、子供にはあひませんよ! つらくてあへないのですもの。
ヘルマー (左手の戸の方にノラを押しやり)あはなくちやいけない!(戸を明けて靜かに云ふ)あれを御覽、子供等は何も知らないで、すや/\眠つてゐる。明日目をさまして、母の跡を慕ふ、その時はもう――母なし子。
ノラ (顫へながら)母なし子!
ヘルマー ちやうどお前もさうであつた。
ノラ 母なし子!(
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