下がっているようにさえ見えたが、一重瞼のいい眼をもっていた。市子は肉付の豊かな、眉毛と眼のところに穏やかな優しみのある、顎の丸い唇が少しお喋りらしく開いた、愛らしい少女であった。
「冬子姐さんの母さんなの」
「うそ、冬子姐さんの叔母さんなんよ。――そら、裏の中田の二階にいらしった、あのお仕事の小母さんなのよ」
「あ、あの小母さんなの。――そんならね、そら、平一郎さんて中学校へ出ている方の母さんなのね」
「ま、市子ちゃんは平一郎さんを知っているの」
「知っているわ」
「わたしだって知っているのよ」
 米子は少し不興らしげだった。(彼女はいつも用足しに出かけるとき、街路で球投げをしてにこ/\笑っている平一郎をよく憶えていたから、同じ平一郎を市子が知っていることを不快に思ったのだ。泥塗れの中に育っても少女の純真さは、毎夜の、酒を飲んで悪巫山戯《わるふざけ》する多くの男達を記憶に深く留めないで、近所の少年のふとした微笑を憶えしめていたとは!)
「平一郎さんもここへいらっしゃるの、え? 冬子姐さん!」こう市子が突然訊ねたが、冬子の答えないうちに、そのとき出て来たお幸に、
「早く庭の掃除をしなさい
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