て、その夜彼女を呼んだ羽二重商のいどむのを逃れて来たことを訴えていた茂子は、時子の次に冬子の隣に眠っていた。冬子はわりにこの陰鬱な茂子に好意をもつことが出来ていた。どうしても芸妓などにはなりたくないと思って泣きながら母親に頼んでも、彼女がまだ嬰児であったとき、貰い受けたときから決定していた継母の意志をひるがえさせることは不可能だった。「もしわたしがお前を育てなければ、お前はどこかの山か川に白骨になっているはずだったよ」と言った義母《はは》の言葉は忘られない。彼女は仕方なしに芸妓になったのだ。彼女は婬らなことに身を任せたあとには精神が異様にたかぶって一夜中眠られなかった。眠られない夜に限って自分が痩せ衰えてしまったように考えられ、搾木にかけて毎夜心身の精粋を絞りとられる地獄だと考えられ、そうしてそのさきには真黒な死が手を伸ばしてつかみかかっているのだと考えられた。昨夜も彼女は冬子に、「死んだらどうなるのか」とたずねたり、「何だか悪い病気が身体中に循《まわ》っているようだ」と訴えたりして、寂しそうに寝入ったのだった。顔や頬の肉をぴく/\神経的にひきつらせながら――。店先から射す光には昼近い
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