彼の内なる和歌子を護《まも》るような目付をした。
「これをね」平一郎はポケットから二つに折った手紙を取り出して木馬の背の上に置いた。「和歌子さんに渡してくれないか?」
深井は雨にさらされて白くなった木馬の背の手紙を見つめていたが、暫くして耳の根まで紅くなった。平一郎はそれを認めるともう勝つか負けるかどっちかだというような気になった。
「僕は和歌子さんと仲よくなりたいと以前から思っているのだ。ね、渡してくれないか。僕は君の家が和歌子さんの家と隣り合っていることは知らなかったのだ。お願いだから渡してくれないか? ――それとも」彼はさすがに身慄いがした。祈りに似た感情が彼の内部に脈うつのだった。
「君は和歌子さんと仲よくしているのかい」
「いいえ」と深井は目を輝かしてきっぱり言った。
「渡しましょう」
「きっとだね!」
「ええ!」
「ありがとう!」平一郎は深井の手を握って、そして嬉しさは彼に、「僕はね、君ともこれから仲よくしてゆきたいと思っているのだ!」と言わしてしまった。深井の瞳に美しい火が燃えた。それはひとたびゆいてかえらぬ生命の炬火《たいまつ》の美しさだった。ああ、何という悦び! 愛
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