の上に散り布いているのを掃き清めて水をうったあとのすがすがしさ。彼がはじめての朝、竹箒を杖のようにして道側の桜樹を見上げていると彼の足に温かいなつかしい異様な感触がした。それはこの家の飼犬のポチが新米の彼の足に接吻したのである。栗毛の、白い斑点のある肥えた、ふさ/\した豊かな耳と、人間の眼のように表情深い眼をもったポチは、彼の足をなめてはふさ/\した頭を彼の踝《くるぶし》におしつけた。彼は思いがけぬ可愛い動物の好意をうけいれて、彼の頭をなでてやった。彼の朝の最後の用事はこのポチに昨日のあまりの飯と牛肉の煮出しとを混ぜてやることである。ポチと彼とは仲よくなってしまった。よくいけば女中達と一緒にすますこともあったが、大抵は台所の横の、O伯爵家の暗い竹藪に接した長四畳の片隅で、急ぐときはポチに食わした残りの冷飯に生煮えの熱い味噌汁を添えて食うのであった。彼は女中の腹を立てたような顔が嫌だったが、まずい食物を不平に思ったことはなかった。学校は八時に始まった。慶応義塾へ出ている乙彦は彼が飯を食っている時分にもう出て行く。平一郎は乙彦のお古にM学院のボタンをつけ直した紺ヘルの洋服に新しく買った靴を
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