ならん意思である。
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     第十章




 ほか/\と暖かさの感じられる四月初旬の午後は暖かだった。(一度でもこうした人間に頭を下げなくてはならないとは辛いことだ。)涙のにじむ瞳に、品川の海が黒藍色に輝いて映る。そこは東京もかなり中心を遠ざかった端っぱであった。欲求が広大な私有地と宏壮な邸宅を必要とする「富」の占有者達は止み難い欲求を高台の新しい土地に充たしていた。霽《は》れた穏かな青空には浮雲一つなく、平坦な大道が緩い傾斜をなして新開の空地と高い煉瓦塀との間にひらかれている。空地には地均《ぢなら》し工事の最中らしい切り倒された樹木の幹や泥のこびりついた生々しい木の根が春の日に晒《さら》され、深い杉林の陰影が半分あまりを暗くしている。奥山はステッキをふりながら、その杉林の中が明治維新の時分に徳川幕府を倒すに勢力のあったM公の邸であると知らしてくれた。緩い傾斜を中程登りつめると、黒板塀に西洋式の庭園の樹木の茂りの蔭に赤い壮麗な煉瓦の宮殿が聳えて見える。尖塔の窓の橙色の綸子《りんず》の窓掛に日の映るのさえが明らかに見える。Kという皇族の御殿であると奥山は知らしてくれた。
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