の道に干渉することを控えしめていた。それは善いとも悪いとも言えなかった。生理的に熟しつつある平一郎の男性的目覚めがあの恐るべき放蕩と堕落に彼を導く暇のなかったのは確かに平一郎の幸福と言わねばならなかった。和歌子一人に集注され、和歌子一人に生活の意義をみいだしていた平一郎が、その生活の意義を奪われてしまった時に、彼を放蕩に堕落せしめなかったのは寧ろ奇蹟と言うべきかも知れない。彼の早くより営まれた内的精神生活が急激に伸びて、『底潮』のグループに内より湧く力の消費対象を見出したのは――放蕩に陥るよりはよいに相違はあるまい。その一すじな力の奔流を堰き止めることを控えたお光の心の悩みはまことに尊いものである。
十七の正月が迎えられ、北国の街に厳冬は長く続いていた。平一郎は毎日の学校への出席を苦艱な労働のように耐えつつ、学校から帰ればすぐに尾沢の宅を訪ねるのであった。あのように進歩した女性のように、また時には淫奔な無恥の女のようにも、また時には世間の状態に通じた人間の心理に同情をもっている懐かしい年上の女人のように思われる静子は、東京の基督教の女学校の専修科を出て、この市街の大きな銀行の事務員を
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