う。しかしそれは唯一の原因ではあり得まい。何よりの原因は、自分達が自分達であることだ。無論「自分達は自分達であることの苦しみ」と「人為的な生活の圧迫」とは同一視できない。前者は不可抗なるものであり、後者はより善くするの望みはある。またよりよくしなくてはならない。どうにも出来ないのは宇宙苦だ。宇宙苦はありとあらゆる万物に滲み入っている。自分達は僅かにこの地上の人間的苦しみをさえ征服出来ずにいるのである。宇宙苦を知らないで人間を終わるものが大多数であるのだ。――平一郎はこの夜午前一時過ぎに家へ帰った。
 彼にとって尾沢のグループはもはや生活するに必要なものとなってしまった。とにかくその中に行けば生きた熱情、真の苦しみ、歓喜に接することが出来た。それは若き平一郎にとっての僅かの慰みであった。平一郎は少年期の傾注的な熱情と信愛をもって『底潮』の一団に交わったのである。お光は平一郎の急に多くなった外出、夜更《よふか》しに心配したけれど、彼女は急には平一郎にそれと注意しないだけの思慮を積んでいた。危険な峠が我が独り子の道にさしかかっているのを彼女は認めた。四十年の苦労が彼女をして急に盲目的に我が子
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