とはお前さん一人の一生の秘密ですのよ」
 次の日天野が出発した。そしてその夜綾子が家出をしてしまった。汽車の中からとして兄と父あてに「天野と夫婦になるために」逃げたと書いてよこした。皆はそう信じてしまった。父も兄も綾子を浮気ものだと怒った。殊に父はいよ/\自分の罪の報いが来たように眉を顰《しか》めた。どうにでも勝手にしろ! と彼は言った。綾子のそうしたことも知らずに大河俊太郎が結婚を申し込んで来たとき、お光は自分でもよろしければどうぞと頼んだのであった。容易に話は纏らなかったが、お光の本気が皆のいろ/\な感情を柔らげるに力があった。お光が大河俊太郎に嫁入ったときの心持はむしろ悲壮であった。

 容太郎はお光が嫁入った翌年死んでしまった。そしてその年の秋にはお里も死んでしまった。北野家には容一郎一人が残されたのであったが、その容一郎も、決して幸福に人間の寿命を生きたわけではなかった。北野家の滅亡すべき時が来ていたのであった。しかし滅亡したとて惜しむわけはないのだ。とお光は後に思った。もと/\何一つないのがあたりまえの北野家であった。大きな邸宅や財宝のあるのが間違いであった。しかもその滅亡
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