何だかむさい[#「むさい」に傍点]匂いがするじゃないの?」
「ひどいお母さんだわね。わたしが可愛がってあげますから。容一郎さんというの、北野家の大切の大切のお世嗣《よつ》ぎですのね」お里は容一郎をあやしているうちに泣きたい気がして来た。お信も涙をにじませていた。庭園の立木を透して降りそそぐ秋の夕日は寂しく二人を照した。
「ほんとにその子をお里さんにあげましょうか」
「ええ、ええ、容一郎さんはわたしの子ですのよ」二人は憎み合えないだけ、それだけ胸の痛手を深く秘めて寂しがっていなくてはならなかった。もう叔母と姪でなく、女と女、一人の恋しい男を守る二人の女であった。
「お里さんにも一人出来てもよさそうなものですのに」
「ええ」お里は恥と口惜しさで俯《うつむ》いて心では祈っていた。しかしお里には子は授からなかった。
次の年お信はまた生んだ。そうしてその出産はお信の生命の奪い手でもあった。しっかりと抱きあった、まる/\肥った健康らしい女の双児は、生まれ出るためにあまりに多くの血を母より奪ったのであった。忌わしい恋のために一生を捧げたお信は「あ」と言って閉じた双の瞳にちら[#「ちら」に傍点]と青
前へ
次へ
全362ページ中168ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
島田 清次郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング