「お許し下さいまし」
「お前には両親がない筈だったね」
「は、い」
 ああ、燃ゆる生命よ。沈着な根強い男の認識に根柢より燃え上がる女の生命が移った。静かに眼を閉じた。一身を献ぐる女の真情に偉大な力は根柢から揺り動かされて来た。燃えさかる烈火を蔽い包むように巨人の力が冬子を抱いた。
「わたしを一生、一生お傍に置いて下さいまし」
「置いてやる。己ももうお前がなくては空虚を感じる」
「本当ですか」
「嘘は言わぬ。明日はもうお前は芸妓ではない。己が自由にしてやる。東京へ一緒に来る気があるか」
「――行きます。何処へでも、何処へでも行きます――」
「――」
「しかしあなたには立派な奥様も立派なお坊っちゃまもいらっしゃるではありませんか」
「己には妻子はある。しかしお前も必要なのだ」
「――?」
「妻の代りじゃない。妻とは別なお前だ。お前はお前で己には無くてはならぬ一人になったのだよ」
 次の朝、古龍亭の若い主婦《おかみ》さんに冬子の「身受け」が託せられた。春風楼へ楼主にすぐ来るように電話がかけられた。酒で眼を充血さした楼主がやって来た。冬子は主婦さんが楼主と交渉するのを襖を隔てて聴いていた。
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