の政治家や学者達にはこのクリストの生活は不可解でありました。たかが大工の子ではないか。食うや食わずの放浪的な不良青年ではないか。其奴《そいつ》が気違いじみたことを言って多くの青年や婦人や、時には堂々たる一かどの人物をも帰依せしめ、性格を一変せしめる不思議な力をもっている。はじめ彼等は放任して置きました。しかし放任して置けないほどに、クリストの力は人々の間に根を張って来ました。殊にユダヤの古い予言者の予言が彼を救世主と信ぜしめるに力がありました。ソロモンの栄華も一本の百合の花に如かない。彼等はその言葉の深い美と真を味わう前に危険だと考えました。クリストにはその時分十二人の弟子達が常に身辺におりました。みな有為な浄い青年達でした。その十二人の勝れた弟子達の一人がクリストを官府に売り渡そうとは誰人《たれ》も思わなかったでしょう。自分の愛する弟子に売られるところにエスの偉大があるとわたくしは思いますが――とにかくエスはユダに少しの銀で売られました。その前にエスは弟子達と悲しい最後の晩餐であろう集合の席で、君達のうちに自分を売る人があると言われ、また或る一人に君は鶏が鳴かない前に自分を知らないと三度言うであろうと予言されました。エスは自分の死をすでに知っていたのです。エスがその国の役人共に引張られて行き、その国の群衆がその後から押しかけ、さて、裁判官がエスをどうしようかと申したときに群集は『十字架にせよ』と叫んでやまなかった。悲しい無知であります。二千年前の人間の無知の悲劇は今にいたるまで絶えませぬ。エスは愛する人々、それ等の人々のためにつかわされたと信ずるその人々から死刑を求められました。その死刑を求めた人々のために、その死刑を求める人類の罪悪のために、やがて近づきせまっている真理を示そうと、――いえ、もうそうした深い人間全体の罪を自分の一身をもってあがないたい一念に燃え立って来ました。森厳な死でした。しかも、彼は一人の死刑囚でした。貧しい人心を惑わす不良青年でした。彼を死刑にする多く群集、多くの学者、多くの政治家は、この厄介な死刑囚の死をどれほど喜んだことでしょう。まずこれで己達も枕が高いと考えたことでしょう。しかし、生涯寂しい孤独に住まわれた神の使命の体現者クリストのその信仰は、万人の胸に生き来る真理でありました。ユダヤの国は亡びました。その頃クリストを死刑にした政治家
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