から中学へ通っていることや、深井のことや和歌子のことがはっきり身に沁《し》みて感じられたことはない。十六年の生涯における「自然の決算」であった。幼年から少年を経て青年へ移り行こうとする成長の一段階であった。
「面白くもない」彼には校長や受持の教師が映像された。彼は二人がひそかにもった好意を直感した。体操の教師の自分への態度も純粋に手紙を悪いと断定したことばかりでなしに、手紙は単に一種の手段に使われていることも分った。学校という一つの古臭いいじけた陰険な小さい争闘や啀《いが》み合いの絶えない木造の大きな箱。その箱の中へ毎日自分達は通わなくてはならないのだ。随分やりきれない。ぐず/\してはいられない。箱の主人が校長で、教員がその中でうごめきながら己をだし[#「だし」に傍点]に争っているのだ――「嫌なことだ!」「しかし――」と彼はあるすばらしい光明が内より射して輝くのに会った。それは「自然の恵める知恵光」であった。
「しかし、これは学校ばかりではない。この人生、この地球がまた大きい一つの古臭いいじけた陰険な、啀み合いの絶えない球塊であるのではないか? 自分もまた無数の生まれては死に生まれては死んだ人間のように自分の一生をこうした啀み合いをして終らなくてはならないのだろうか。そうだとは信じられない。どうしたって信じられない。せめては自分一人でもがこの人生を生き生きした美しい悦びに充ちた人生であるようにしようとの意思を抱いてはならないのであろうか? それは出来ないことかも知れない。しかし出来ないことだとは言えまい。出来ることかも知れないではないか? そうです、出来ることです。きっと自分がやってみせます。死んでもやってみせます――ああ」と彼は深碧の大空を仰いで、「やらして下さい」と何かに祈るように跪いた。「使命」の感が彼に燃えたのである。

 平一郎は午後四時頃平気な様子で家へ帰った。母へ自分から停学のことを知らす気になれなかった。知れるなら仕方がない、知れなければどうかして知らしたくないと考えた。どうしてよいか分らなかった。しかし、どうにかしなくてはならないものが彼の根元に蠢《うご》めき始めていた。彼はぐっすり夕暮まで寝た。
「平一郎、平一郎、どなたか戸外《そと》で呼びに来ていらっしゃるそうですよ」
 彼は起きた。米子が笑いながらお光と彼の顔を見比べていた。
「誰?」
「吉倉
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