た気にならあね」
「よけいな返答をこくわ」
つけつけと小言を言わるれば口答えをするものの、省作も母の苦心を知らないほど愚かではない。省作が気ままをすれば、それだけ母は家のものたちの手前をかねて心配するのである。慈愛のこもった母の小言には、省作もずるをきめていられない。
「仕事のやり始めはだれでも一度はそういうものだよ。何が病気なもんか。仕事着になって、からだが締まれば痛みはなくなるもんだ」
母はそういっても、どこか悪いところがあるかしらんと思ったらしく、省作の背へ回って見上げ見おろしたが、なるほど両手の肘と手くびが少し腫れてるようだけど、やっぱりくたぶれたに違いないという。
「そうかしら、なんだか知らないけど、ばかに腰が痛いや。ばかばかしいな百姓は」
「百姓がばかばかしいて、百姓の子が百姓しねいでどうするつもりかい。あの藤吉《とうきち》や五郎助《ごろすけ》を見なさい。百姓なんどつまらないって飛び出したはよいけど、あのざまを見なさい」
省作がそりゃあんまりだ、藤吉の野郎や五郎助といっしょにするのはひどい、というのを耳にもとめずに台所の方へいってしまった。
冷ややかな空気に触れ、つ
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